北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2024年08月14日
(501)門司が舞台「生きとし生ける」第2巻刊行 街に残る戦争の「痛み」

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★
連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第501回
『西日本新聞』北九州版 2024年8月4日(日)朝刊 24面掲載
門司が舞台「生きとし生ける」第2巻刊行
街に残る戦争の「痛み」

 北九州は門司を舞台にした漫画「生きとし生ける」の2巻が、5日に刊行されます。九州では2、3日遅れて書店に並ぶ予定ですが、2巻も市民にとって見逃せないシーンが多数収録されています。

 ある日門司港の波止場で偶然出会った、東京に住む小説家の古賀と、北九州でアイドル活動する望。戦時中従軍していた古賀の祖父・照久は、終戦後、出兵先で知り合った望の高祖父・有馬の家に身を寄せていたようで、ふたりには、戦争が結び付けた縁があったことが分かります。存命する望の曾祖母・照子から当時の話を聞くうちに、彼らを題材にした小説を書きたいと考えるようになった古賀は、望とともに、祖父らの足跡をたどってさまざまな場所を訪ねるようになります。

 1巻では、出兵の拠点地であった門司港を俯瞰する和布刈公園の展望台へ。2巻では、B29による日本本土初空襲の標的地であり、その後たびたび大きな空襲に見舞われた八幡へ。整地され、戦禍の爪痕を感じさせない八幡駅前には、しかし今も慰霊の塔が静かに存在しています。その後ふたりは皿倉山展望台へ。北九州を見渡せる圧巻の風景の中で、過去と現在のこと、そして心の内を語り合います。

 2巻ではついに古賀の小説が出版されます。それを契機に、当時のことを知る重要人物が現れ、物語はまた大きく動いていくのですが…。北九州の過去と現在を描きながら、戦争における加害と被害、それらが戦後も人々と街に様々な形で「痛み」を残していたということを真摯に伝える本作に、今後も注目です。

(学芸員・石井茜)

=MEMO=
常設展示エリアにて「『生きとし生ける』第2巻発売記念展示」を9月29日(日)まで開催中。