北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2025年03月15日
(530)漫画が伝える戦時下の暮らし 記憶継承の架け橋に

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★
連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第530回
『西日本新聞』北九州版 2025年3月9日(日)朝刊 24面掲載
漫画が伝える戦時下の暮らし
記憶継承の架け橋に

 漫画というメディアは世のあらゆるものを描いてきました。北九州を舞台にした作品も意外に多く、言葉や文化、歴史や風土など、多様な視点から物語が紡がれています。その中で、 北九州に残る戦禍の“記憶”をテーマにした「生きとし生ける」(著:長谷川未来さん)は、目に見えないもの描き出そうとする点で少し特殊で、挑戦的と言えるかもしれません。

 平和のまちミュージアム(小倉北区)で開催中の「まちとわたしたちの物語―令和6年度収蔵品展―」では、戦時中のくらしをうかがわせる資料と、それらと響きあう「生きとし生ける」の印象的なシーンが展示されています。

 漫画自体はフィクションですが、北九州市内にある戦跡や慰霊碑、博物館に収蔵された記録の数々が物語の土台になっていることから実現した企画で、漫画ミュージアムも展示制作に協力しました。

 漫画で描かれるキャラクターのせりふやドラマが、現実の人々が残した資料と結びつくと、戦時を生きるひとりひとりの思いや暮らしぶりがより身近なものとして浮かび上がります。それは漫画が持つ「物語を伝える力」に由来します。

 他の誰でもなく、「私」自身が語り継ぎ、後世に残そうという意思を持たなければ、あらゆる記憶と資料は失われます。個人の力に限界はあっても、より多くの人の語りによって継承は可能になるでしょう。あくまで読み物として描かれるものなので、漫画を歴史の語り部とすることに慎重である必要はありますが、漫画は私たちが記憶を受け継ぐ架け橋になり得ることを、この展示は証明しています。

(学芸員・石井茜)

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平和のまちミュージアム「まちとわたしたちの物語―令和6年度収蔵品展―」の詳細はこちら