北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2020年07月09日
(298)漫画ミュージアムの舞台裏① 肉筆原稿の保存と見どころ

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★

連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第298回
『西日本新聞』北九州版 2020年4月8日(水)朝刊 16面掲載

漫画ミュージアムの舞台裏① 肉筆原稿の保存と見どころ

 引き続き臨時休館中の北九州市漫画ミュージアムですが、館内では学芸員や図書担当が、収蔵資料の整頓に重点的に取り組んでいます。当館の収蔵資料は大きく二つのカテゴリーに分かれ、自由に閲覧できる約7万冊のマンガ単行本は「図書資料」。そして「学芸資料」は、北九州市ゆかり作家に焦点を絞ったコレクションで、「原画」と呼ばれる漫画の肉筆原稿を約2万点、雑誌や単行本などを約2千点収蔵しています。
 皆さんに気軽に読んでいただくことを主眼とする「図書資料」とは異なり、「学芸資料」は恒久的に保存し、次代へ伝えることを旨としています。一定の温湿度の下で厳重に保管し、ご覧いただけるのは展覧会に出している時のみ。かつ、長く出していると傷みやすいので、一定期間ごとに入れ替えて休ませています。
 中でも「原画」は、作家のペンタッチが間近に感じられる特別なものです。マンガに使うペンは、力を入れると先が広がって描線が太くなるので、描線の太さや紙のへこみを観察すれば作家の力加減が想像できることも。例えば関谷ひさしの場合では、なめらかに一気に引いた長い線と、鉛筆でデッサンをする時のような細かな線の重ね描きとをうまく使い分けていることが、実物をじっくり見るとわかります。
 マンガの原画は元々、長く保存することを考えて作られていないため、紙質も悪く、年月の経過とともに全体が黄ばんだり、セロハンテープの痕が変色したりします。これ以上の変化がなるべく生じないよう大切に扱いながら、間近に鑑賞していただく機会を設けることが、マンガを扱うミュージアムと学芸員の最も重要な使命の一つなのです。
(専門研究員 表智之)