北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2013年02月14日
イベントコーナーで研究会を開催しました。

九州部会1 2月10日は、北九州市市制50周年を記念しての祭典が市内各所で開かれた、大変にぎやかな日でした。

 その日、当館6階イベントコーナーでは、真剣な面持ちで熱っぽく語り合う20名ほどの集団が。
 マンガ研究者が集う学術団体「日本マンガ学会」の、九州在住のメンバーで構成されるサブグループ「九州マンガ交流部会」の研究会が開催されたのです。

 このグループでは通常、九州出身の漫画家を囲んで九州ならではの漫画の魅力について議論したり、漫画研究を専攻する大学生や大学院生が研究発表を行ったりしています。
 今回は、今年7月6日(土)7日(日)に当館を会場に開催される、日本マンガ学会の第13回研究大会に向けての「読書会」でした。
 研究大会で開催される大規模なシンポジウムへの準備として、共通の作品を読んでその歴史的意義を検討したり、関連する研究調査の結果を共有したりする、一種の勉強会です。

九州部会2 発表は2本あり、まず私、当館専門研究員の表が「文献ノート:安彦良和「虹色のトロツキー」について」と題して発表。
 同作品が発表された1990年代前半の社会状況がどのようであり、そのことから同作品はどう評価されるべきか、などをお話しました。
 漫画は、発表された時代ごとの気分や空気を呼吸しながら作られるもの。
 同じ作品でも、発表当時に読んだ時の印象と、今はじめて(あるいは今あらためて)読む時の印象は、大きく異なっている可能性が高いのです。
 特にこの「虹色のトロツキー」のように、「歴史」や「政治」を描き、人々の歴史観や政治意識に働きかけるような作品であればなおさらです。

 続いて、筑紫女学園大学教授の大城房美さんと、大分大学准教授の長池一美さんからは、「事例報告:香港とフィリピンのマンガ状況」と題した発表がありました。
 日本の漫画が海外で人気を博していることは、すでに皆さんもご存知でしょうが、どういう人たちがどのように日本の漫画を楽しんでいるかは、国や地域により様々です。
 老若男女誰でもが漫画を読んで不思議はない日本と違って、日本以外のほぼ全ての国・地域では、漫画は特定の性別や年代、あるいは特定の社会階層と結びついた、“一部の人の文化”=「サブカルチャー」であるからです。
 今回の発表では、香港とフィリピンでの調査結果を豊富な写真で紹介され、どのような漫画が元々香港やフィリピンにあり、日本の漫画がどのように吸収され、その結果どのような漫画が新たに生まれていったのかが示されました。

 こういった研究会は通常、大学や市民センターの会議室など閉じた空間で開催されるものなのですが、当館のイベントコーナーは閲覧ゾーンの一角にあるオープンスペース。
 たくさんの来館者が熱心に漫画を読みふけっているその横で、アジア太平洋戦争の捉え方が変容していく過程で漫画の果たした役割は、だの、近年のフィリピン産の漫画がアメリカ的であるか日本的であるかそれともフィリピン独自のものであるかという論争と漫画のキャラクターの顔立ちの関係は、だの、小難しい話が延々と続いているというのは、ちょっと奇妙な光景かも知れません。
 しかし、これこそが「漫画」という表現の面白さ。純粋に娯楽として、何も考えずに楽しむこともできれば、その歴史的意義や社会的役割を学術的に深めることもできるのです。

 それに、「九州マンガ交流部会」のメンバーとして参加された方だけでなく、たまたま通りがかった方が興味を持って聴き、発言までしてくれました。
 オープンスペースで開催してこその、嬉しい出会いだったと思います。
 今後もこういった研究会を、そう頻繁にではありませんが、イベントコーナーで開催していきたいと思います。
 ご来館の際に見かけられたら、ためしにちょっとお耳をお貸しください。

「日本マンガ学会」HP
http://www.jsscc.net/