2022年02月24日
(378)こうの史代・竹宮惠子らの新著 漫画の約束事を考察
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連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第378回
『西日本新聞』北九州版 2022年2月20日(日)朝刊 16面掲載
こうの史代・竹宮惠子らの新著
漫画の約束事を考察
漫画は、誰にでも楽しく読めて分かりやすいとよくいわれます。しかし実は、最初から分かりやすいわけではありません。
セリフが書かれた「吹き出し」がギザギザと尖っていたら激しい調子の声だとか、頭の上に湯気が出ていたら怒っているとか、言動や感情や出来事を表すたくさんの約束事で漫画は成り立っています。この約束事が直感的に理解できれば確かに「分かりやすい」のですが、それには一定の慣れが必要なのです。
漫画の約束事の解明は学術的にも重要なテーマですが、実際に漫画を描く作者の視点から、約束事をどう意識し活用しているかを深めた研究がやや手薄でした。また、1コマや1ページを抜き出して論じることが多く、作品全体の流れの中で約束事を捉える視点も弱かったのです。
昨年10月に刊行された『マンガノミカタ』は、そういった点に踏み込んだ画期的な本です。漫画家・こうの史代と竹宮惠子、研究者の吉村和真と、大学で教壇に立つ3人が漫画の約束事の仕組みや歴史、今後の豊かな可能性について多面的に考察しています。
圧巻なのは、こうのの出世作である『夕凪の街』全31ページに吉村が細かく注釈をつけたパート。揺れ動き葛藤する心理の機微が、画面上でどう工夫され、どう伝わるのか。その細やかな演出に舌を巻くとともに、自分が作品から直感的に得ていた衝撃があらためて言葉にされることで、自己の内面に向き合うような重厚な読書体験が得られます。
平易な言葉でつづられ、参考図版や補足のコラムも多く、漫画研究の醍醐味を気軽に体験できる好著です。ぜひご一読を!
(専門研究員 表智之)
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◆こうの史代・竹宮惠子・吉村和真『マンガノミカタ:創作者と研究者による新たなアプローチ』(樹村房、2021年)
◆著者3名によるトーク映像を公開中! ※刊行記念オンライントーク(2021.10.27.)のアフタートークを収録したもの