2022年04月20日
(386)矢口高雄の描写力 同業者が語る「すごさ」とは
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連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第386回
『西日本新聞』北九州版 2022年4月17日(日)朝刊 18面掲載
矢口高雄の描写力 同業者が語る「すごさ」
現在北九州市漫画ミュージアムで開催中の「矢口高雄展」では、293点もの直筆原稿を展示しています。『釣りキチ三平』を代表作に、釣り、雄大な自然、ふるさとの記憶を卓越した筆致で描き続けた矢口。来場者からは、生の原稿の緻密さ、美しさに感嘆する声が多く聞こえます。事実、その描写力、特に背景の自然の描写は、マンガ界きってのものと同業者からも尊敬を集めています。
たとえば水の表現。ここでは澄み切った湖面と、荒々しいしぶきが一体となって、静と動を併せ持つ優美な水の流れが表現されています。そして滝を取り囲む、苔むした岩々と山吹の、幻想的とも言っていいほどに美しい風景。葉の一枚一枚まで丹念に描き込まれた草木は、誇張された遠近感とあいまって自然の雄大さを感じさせます。
リアルさがありながらも、漫画的な表現方法によって現実を超えた迫力を持つ珠玉の原稿たち。4月29日、北九州ゆかりのマンガ家であり、情熱的な釣り人であり、矢口作品の大ファンである井上正治先生に、その魅力を聞くトークイベントを開催します。「釣りキチ三平」をきっかけに釣りを始めたという井上先生。また現在教鞭を執る大学では、矢口作品の背景描写を教材とすることもあるそうです。本イベントでは、矢口作品の何が少年達を釣りに駆り立てたのか、そして読者を惹きつける技巧の数々を、同業者の目線で語っていただきます。同じマンガ家だからこそわかる「凄さ」と、表現力の「肝」を、一緒に聞いて、感じてみませんか。ご参加お待ちしています。
(学芸員 石井茜)