北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2022年03月19日
(381)矢口高雄が描く自然 厳しさと美しさを表現

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★

連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第381回

『西日本新聞』北九州版 2022年3月13日(日)朝刊 24面掲載

矢口高雄が描く自然
厳しさと美しさを表現

 マンガ家・矢口高雄のふるさとは秋田県雄勝[おがち]郡の山村、西成瀬村狙半内[さるはんない]。後に自治体合併で増田町に、次いで横手市になるのですが、冬は豪雪に悩まされる地域です。だからこそ、自然を恐れるばかりでなく、その美しさを愛する感受性も豊かなのでしょう。横手市は「かまくら」が有名で、狙半内でも積雪に小さな雪洞を掘って中にろうそくをともす「幻灯」が楽しまれています。

 矢口のマンガは、代表作「釣りキチ三平」の「釣り」も含め、自然と人間の闘いを通じて自然の厳しさと美しさを描いていますが、風景を主役とする一枚絵も多数手掛けています。「春の小川」は代表的な一作で、矢口の原画を収蔵し展示する「横手市増田まんが美術館」でも、夏・秋・冬の風景画と共に同館のエントランスホールの壁画となっています。

 同館は1995年に増田町が開設。矢口の個人記念館ではなく、古今のマンガ家100人以上の原画を収蔵し展示する総合的な美術館としたのは、矢口自身の強い意志でした。マンガ家が心血を注いだ生原稿が、人々に強い感銘を与えるとの信念です。また、自分の過去を振り返ることよりも、さまざまな原画に触発されて、新たな文化が生まれる可能性を重んじたとも言えるでしょう。

 北九州市漫画ミュージアムで昨日開幕した「矢口高雄展」では、300点近くの原画でその画業をたどると共に、美しい風景画も多数展示しています。マンガ界随一と評される、精細かつ生命感あふれる自然描写を通じて、矢口の思いに触れ、春の訪れをともに喜んでください。

(専門研究員 表智之)

=LINK=
企画展「矢口高雄展 夢を見て 描き続けて」
「横手市増田まんが美術館」公式サイト